、だがよかったろうか、森本はフトぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]とした。しばらく両方がだまった。

 コツ、コツ、コツ……。

 又向うが打ち出した。が、今度はその打つ場所がちがっていた。彼はその方へ寄って行った。すると、其処から小さい光の束が洩《も》れていた。何処の留置場でもよくあるように、前に入れられた何人かによって、少しずつ開けられたらしく、そこだけ小さく板がはげて、穴になっていた。――いゝことには、そこは表からは奥になっていた。彼は思いきって、その同じ場所をコツ、コツ、コツと、打ってみた。
 低い声がそこから洩れてきた!
 彼はソロ/\と身体をずらして穴の丁度、そこへ耳をあてた。
 ――ダ…………。
 はっきりしなかった。何度も耳をあてかえ直した。
 ――ダレダ……。
 「誰だ?」――然し、そういうもの自身が一体誰だろう。彼は口を穴に持って行った。
 ――誰だ?
 ときいた。そして、直ぐ耳をあてた。相手はだまったらしかったが、少ォし大きな声で、
 ――ダレダ?
 と繰りかえした。
 アッ! その声は河田ではないか! 彼は急に血が騒ぎ出した。表の方へ気を配ってから、口をあてた。
 ―
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