はアッ! と思った。
 ――裏切った?
 思わず大きな声を出した。
 ――ン。
 ――本当か?
 ――ホントウ。
 知らないうちに握りしめていた彼の掌は、ネト/\と汗ばんでいた。
 ――ワカル……。
 ――ん、分る。
 ――ハズノナイ……。
 ――ん? ん?
 ――ワカルハズノナイコトマデ……。
 ――分る筈の……、ん。
 ――ミンナ……。
 ――皆、
 ――ワカッタ。
 ――……!
 ――ジケンハ……。
 ――事件? ん。
 ――ジケンハ……。
 ――ん、分った。
 ――キョウサントウ!
 ――矢張り!
 矢張りか、と思った。彼は胴締めをされたような「胸苦しさ」を感じた。
 ――サイ……。
 ――ん?
 ――サイゴマデ……。
 ――ん。
 ――ガンバレ。
 ――分った!
 ――アノ……。
 その時、彼はギョッとして、身体を跳ね起した。廊下を歩いてくる靴音を聞いたと思ったからだ。
 そしてそれは本当に靴音だった。――何か騒がしい事が、向う端で急に起ったらしかった。
 形式だけの検束をうけて、留置場の中で特別の待遇をうけて居た鈴木が、この明け方、首を縊《くく》っていたのを、看守の巡査が発
前へ 次へ
全139ページ中137ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング