奮が咽喉《のど》にきた。で、森本が次を取った。
――そんなわけで……一寸、貴方々の……勝手には……。
彼は専務や工場長に、而も彼等を三尺と離れない前において、もの[#「もの」に傍点]を云うのは初めてだった。彼は赤くなって、何度もドギマギした。普段から、専務の顔さえも碌《ろく》に見れない隅ッこで、鉄屑のように働いている森本だったのだ。それに顔をつき合わせると、専務は案外な威厳を持っていた。――だがそう云われて、この「鉄屑のような」職工に、工場長は言葉をかえせなかった。
――まず「確答」だ!
――要求を承諾して貰うんだ! それからだ!
食堂をうずめている職工のなかゝら、誰かそれを叫んだ。上長に対して、そんな云い方は、この[#「この」に傍点]工場としては全くめずらしかった。こういう風に一つに集まると、彼等は無意識のうちにその力を頼んでいた。そして彼等は全く別人のようなことを平気で云ってのけた。
工場長とそれに森本も同時に眼をみはった。誰が何時の間に職工をこんな風に育てたのか?
――直ぐこゝでは無理でしょう。余裕を貰わなければなりますまい。
初めて専務は口を開いた。この言葉使い
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