ると、こう涙が出て来るんだ。
――そうね。
お君は自分の眼をこすった。
――さ、行って、賞《ほ》めてやらないと。
お君は女工たちの方へ走って行った。芳ちゃんは皆に取り巻かれていた。見ると、彼女は堪えていた興奮から、自分でワッ! と泣き出してしまっていた。
――安心出来ないよ。廻って歩くと、こゝに集ってるのは矢張り「会社存亡組」が多いんだ。仲間の一人が森本に云った。
――然し一旦《いったん》こう集ってしまえば、一つの勢い[#「勢い」に傍点]に捲《ま》き込まれて、案外大したことにならないかも知れない。
――然し、俺達も危ない機微をつかんで、成功したな。あとはしゃり[#「しゃり」に傍点]無理、こっちへ引きずることだ。
次に各職場の代表者が一人ずつ、壇に上った。彼等は全部「細胞」だった。一人々々が火のような言葉を投げつけた。「会社存亡の秋《とき》」を名として、全職工を売ろうとしている彼奴等のからくり[#「からくり」に傍点]をそこで徹底的にさらけ出した。――と、職工たちのなかに、風の当った叢林《そうりん》のような動揺がザワ/\と起った。森本はハッとした。然しそれが代る/″\立つ容
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