ことをやめた。耳の後に掌をあてゝ、みんな背延びをした。
――……こゝへ上るのに、どんなに覚悟が要るでしょう……私は生意気かも知れません……でも必死です……誰か矢張り先に立って生意気にならなければ、私たちはどうなって行きますか……。
――あの温しい芳公がな。
一句切れ、一句切れ毎に皆の言葉がはさまった。
――ねえ、どう?
お君は云った。
――しっかりしている。
――私たち皆と仕事をするようになってから、自分でも分るほど変ってきたわ。
――……私たちは男からも、会社からも……何時でも特別待遇をうけてきました……。
言葉が時々途切れた。
――女がこういう所に出て、こうやって話が出来るのは……この工場始まって以来のことかと思います……私たちも一人残らず一緒になり……お助けして行きたいと思っています。皆さんも……どうぞ……。
芳ちゃんが降りると、ワァーッという声と一緒に、拍手が起った。それが何時迄も続いた。お君の云った通り、男工たちに予想以上の反響を与えた。
――矢張り、少し温し過ぎる。
とお君が云った。
――芳ちゃんにしたら大出来だ。然し、よくやってくれた。聞いてい
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