。私でもいゝはいゝけれども、私ならそんな事を云うかも知れない女だってことが分ってるでしょう。だから、そうひどく感動は与えないと思うの。然し芳ちゃんなら、へえッ! って皆がね。――煽動効果満点よ! 無理矢理出さすの。
お君はずるそうに笑った。しめった赤い唇が、耳のすぐそばにあった。
次に誰が出るか、それをみんな待った。然し人達は意外なものを見た。片隅から出て行ったのは、「女」ではないか、皆は急にナリ[#「ナリ」に傍点]をひそめた。――そして、それがあの「芳ちゃん」であることが分ったとき、抑えられた沈黙が、急に跳ねかえった。ガヤ/\とやかましくなった。
――あの女が※[#感嘆符二つ、1−8−75]
芳ちゃんは壇の上へ、あやふやな足取りで登ると、仲間の女たちのいる方へ少し横を向いて、きちんと両手をさげたまゝ、うつむいて立った。――顔が蒼白《そうはく》だった。
――これだけの男の前だぜ。あれで仲々すれ[#「すれ」に傍点]ッてるんだろう。
横で、ラッカー工場の職工が云っているのを、森本は耳に入れた。
芳ちゃんはそのまゝの恰好で、顔をあげずに云い出した。聞きとれないので、皆はしゃべる
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