を怒鳴った。
 ――で、工場委員会です。彼奴等の勝手にされていた委員会を我々のものにしなければならない。その第一歩として、委員の選挙です。我々は全部結束いたしまして、この目的のために闘争されんことを、コイ[#「コイ」に傍点]希うものであります。――俺、何しゃべったかなア!
 お終《しま》いに独言ともつかない事をくッつけた。それが皆にきこえたので、ドッと笑った。
 ――よオッく分ったぞ!
 ワザと誰かゞ手をたゝいた。
 お君が森本の後に来ていた。ソッと背を突いた。お君は興奮している時によくある片方の頬だけを真赤にしていた。
 ――耳……。一寸。
 ――ん。
 ――あのね、芳《よっ》ちゃんに出てもらう事にしたの。
 ――芳ちゃん?
 あの「漂泊の孤児」がかい? と思った。何でももの[#「もの」に傍点]をズケ/\云う河田に従うと、お芳は「漂泊の孤児」だった。顔の膚がカサ/\と艶《つや》がなく、何時でも寒そうな、肩の狭い女だった。無口であったが、思慮のあることしか云わなかった。お君がそばにいると、日陰になったように、その存在が貧相になった。
 ――え、真面目な人は案外思いきったことをするものよ
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