々は「命」さえも安々と賭けなければならない。ブリキ罐をいじっている製罐部の諸君に、私は何人指のない人間がいるかを知っている。――指の無い人間! それが製罐工場が日本一だということをきいている。で、我々はそんな場合、会社の云いなりしかどうにも出来ない。何故だ? 我々は我々だけの職工の利益を擁護してくれる機関[#「機関」に傍点]を持っていないからではないか。――増野はもっと元気づいて続けた。
――金菱がどうのとか、産業の合理化がどうとか、面倒な理窟は知らない。たゞ我々のうちの半分以上も今首を――首を[#「首を」に傍点]切られようとして居り、賃銀は下がり、もっとギュウ、ギュウ働かされるそうだ。偉い人はもっと/\儲《もう》けなければならないのだそうだ。――
彼はそこで水をのむコップを探がした。
――で…………。
水の入ったコップが無かった。彼はそこで吃《ども》ってしまった。カアッと興奮すると、彼は又同じことを云った。すると彼は何処までしゃべったか、見当を失ってしまった。無数の顔が彼の前で、重って、ゆがんで、揺れた。それが何かを叫んでいる。彼は仕方がなくなってしまった。彼は最後のことだけ
前へ
次へ
全139ページ中115ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング