合って、二階になっている。そして降り口は一つしかなかった。――で、帰るのにはどうしても二階に行って、食堂を通り、服を着かえて、その階段を又降りて来なければならない。それが偶然にも森本たちに、この上もない有利な条件を与えた。食堂の会合に出なければ、どうしても帰ることが出来ないようになっていた。――普段から職工仲間に信用のある「細胞」を階段の降り口に立たせて置いて、職工を引きとめた。
不賛成な職工や女工はしばらく下の工場で、機械のそばや隅の方を文句を云いながら、ブラブラしていた。帰るにも帰れなかったのだ。年老《としと》った職工や女房のいるのが多かった。女工たちは所々に一かたまりになって、たゞ立っていた。女の方は別な理由はなかった。何んだか工合わるく、それに生意気に感じて躊躇《ちゅうちょ》しているらしかった。
――ストライキの相談じゃないんだよ。委員を選挙にして下さい。これだけの事なんだよ。
森本がそれを云って歩くと、それだけの事なら、もっと穏やかな話し様もあるんでないかと云った。
――何処にか穏やかでない処でもあるかな。会社と一喧嘩をするわけでもないし、お願いなんだ。女工はお君やお
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