程離れた向う隅で、仲間に何か一生懸命しゃべっているのが見えた。顔全部を自由に、大げさに動かしながら、口一杯でものを云っている。お君がそこにすっかり出ていた。――森本はその女に自分の気持をチットモ云えないことを、フト淋しく思った。飯が終る頃、お君が食器を持ったまゝ皆のいる所を通った。
 ――どうだ?
 ――四分の一位。別に反対の人はないのよ。それでも女は一度も出つけ[#「出つけ」に傍点]ないでしょう。
 ――うん。
 ――でも、頑ん張ってみる。
 ――頼む。
 ――森さん、今日は「首」を投げてやってよ。首になったら、皆で養ってあげるから。
 お君は明るく笑って、スタンドへ行った。
 ――それから「偉い方」はどうかな。
 と森本が仲間にきいた。
 ――事務所ではまだ勿論「工場大会」のことには気付いてはいないんだが、対策はやってるだろう。――給仕が云ってた。自動車で専務がやってきたって。工場長が電話で呼んだらしい。ところが専務は気もでんぐり返えして、馳け廻ってるんだ。まだ/\工場どころでないらしいんだ、
 ――こゝは俺達のつけ[#「つけ」に傍点]目さ。

 脱衣場は集合場になる「食堂」と隣り
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