どうした? 太《ふて》え野郎だ。
 然しそれ以上職長にはどうにも出来なかった。「うらめし」そうに踏みにじられた紙片を見ながら、
 ――この野郎、とう/\誤魔化しやがった! 畜生め!
 と云った。
 機械から手を離して見ていた職工たちは、ざまア見やがれ、と思った。
 ――グレエンに吊《つる》されるのも、もう少しだぞ。
 職長は目論見《もくろみ》外れから工合悪そうに、肩を振って帰って行った。職工たちの眼はそれを四方から思う存分|嘲《あざけ》った。
 ――バーカーヤーロー。
 ステキ盤でシャフトに軌道をほっていた仲間が、口を掌で囲んで、後から悪戯した。皆がドッと笑った。職長がくるりと振りかえって、職場を見廻わした。急に皆が真面目な顔をして、機械をいじる真似をした。我慢が出来なくて、誰か隅の方で、プウッと吹き出してしまった。
 ――いま/\しい奴だ!
 硝子戸を乱暴に開けて、中へ入った。
 ――自分の首でも気をつけろ、馬鹿!
 昼休みには、森本と重な仲間が四人同じ所に坐って、もう一度綿密に考えを練った。
 ――女の方はどうかな。
 ――戦術としてもな。ハヽヽヽヽ。
 ――そうだよ。
 お君は余
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