」にも、「釘付工場《ネーリング》」にも、「函詰部《パッキング》」にも同じ方法で廻っていた。――
職長たちが話しながら、ゾロ/\事務所から帰ってきた。機械についていた職長がそれを見ると、周章てゝ走って行った。彼は工場の隅で立話を始めた。職工たちは仕事をしながら、それを横目でにらんだ。
仕上場の見張りの硝子戸の中から、「グレエン」職長が周章てゝ飛び出してきた。――金剛砥《グラインダー》に金物をあてゝいた斉藤が、その直ぐ横の旋盤についていた職工から、何か紙片を受取って、それをポケットに入れた。それをひょッと見たからだった。神経が尖《と》がっていた。――皆は何が起ったか、と思った。その「渡り職」の後を一斉に右向けをしたように見た。
――おいッ!
大きな手が斉藤の肩をつかんだ。然し振返った斉藤は落付ていた。
――何んですか?
ゆっくり云いながら、片手は素早くポケットの紙片をもみくしゃにして、靴の底で踏みにじっていた。
――あ、あッ、あッ、その紙だ!
職長がせきこんだ。
――紙?
砂地の床は水でしめっていた。斉藤は靴の先きで、紙片をいじりながら、
――どうしたんです。
――
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