ねた。が、フト、ぎょッとした。――それは細胞の一人だった。「H・Sニュース」に漫画が多かったりすると、彼はよく糊付《のりづ》けにぺったり機械へはったりした。
 ――後にはキッと共産党がいるんだ。どうもそうだ。
 ――然しあんなものが共産党なら、共産党ッてものも極く当り前のことしか云わないもんだね。
 ――だから恐ろしいんだよ。
 彼は笑ってしまった。
 ――だから何んでもないッて云うのが本当でしょうや。
 仕事が始まってから二十分もした。――働いていた職工が後から背を小突かれた。
 ――何処ッかゝら廻ってきた。
 紙ッ切れをポケットの中にソッと入れられた。いゝことには、職長が二人位しかいないことだった。
[#ここから4字下げ、罫囲み]
「工場委員会」の選挙制協議のため時間後一人残らず食堂へ集合の事。危機は迫っている。団結の力を以って我等を守ろう。
[#ここで字下げ終わり]
 ――次へ廻わしてやるんだそうだ。変な奴には廻さないそうだど。
 ――ホ! 矢張りな。
 同じ時に、それと同じ紙片が「仕事場」にも「鋳物場」にも、「ボデイ・ライン」にも、「トップ・ライン」にも、「漆塗工場《ラッカー》
前へ 次へ
全139ページ中107ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング