広くひゞかせた。職長は二人位しか工場に姿を見せていない。事務所に行ってるらしかった。――皆はいつものように、ボーがなっても、直ぐ機械にかゝる気がしていなかった。
ベルトがヒタ、ヒタ………と動き出すと、声高にしゃべっていた人声が、底からグン/\と迫るように高まってくる音に溺《おぼ》れて行った。シャフトにベルトをかけると、突然生物になったように、機械は歯車と歯車を噛《か》み合わせ、シリンダアーで風を切った。一定の間隔に空罐をのせたコンヴェイヤーが、映画のフイルムのように機械と機械の間を辷《すべ》って行った。ブランク台で大板のブリキをトロッコから移すたびに、その反射がキラッ、キラッと、天井と壁と機械の横顔を刃物より鋭く射った。トップ・ラインの女工たちが、蓋を揃えたり、数えたりしながら何か歌っている声が、どうかした機械の轟音のひけ[#「ひけ」に傍点]間に聞えた。――天井の鉄梁《ビーム》が機械の力に抗《た》えて、見えない程揺れた。
――あのニュースとかッて奴は共産党の宣伝をしてるんだろ、な。
職長が両手を後にまわしながら、機械の間を歩いていた。
――さア。
きかれた職工は無愛想につッぱ
前へ
次へ
全139ページ中106ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング