傍点]になった、堅い身体を持っていた。
 ――それア何たって本場[#「本場」に傍点]さ。
 ――本場はよかった。出し抜かれるなよ。
 と笑った。
 ――出し抜かれて見たいもんだ。
 熟練工のいる仕上場は「金菱」のことで、直接にそうこたえるわけではなかったが、製罐部のように直ぐ代りを入れることの出来ない強味を持っていたし、何より森本を初め「細胞」の中心がこゝにあったので、しっかりしていた。
 ボールバンに白墨で円を描いていた仲間が森本をちらッと見ると、眼が笑った。白墨の粉のついた手をナッパの尻にぬぐって、
 ――「紙」は?
 と、訊《き》いた。
 ――朝すぐ。先手を打つ必要がある。
 旋盤や平鑿盤《シカルバン》や穿削機《ミーリング》についている仲間が、笑いをニヤ/\含んだ顔でこっちを見ていた。機械に片足をかけて「金菱政策」を泡をとばして話していた。穿削機には昨日から歯を削っていた歯車が据えつけられたまゝになっていた。
 大乗盤の側の空所に、註文の歯車やシャフトや鋲付する煙筒や鉄板が積まさっていた。仕上った機械の新鮮な赤ペンキの油ッ臭い匂いがプン/\鼻にきた。
 就業のボーが波形の屋根を巾
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