かったら、こういうものは駄目なんだ。
 云っているのは増野だった、――見習工のとき、彼は溶かした鉄のバケツを持って、溶炉から砂型に走って行く途中、足下に置き捨てゝあった木型につまずいて、顔の半分を焼いた。そのあとがひどくカタを残していた。
 ――各職場から一人か二人ずつ出るんだな。
 森本は彼を「細胞」の候補者にしていた。
 鋳物工の職工は、どれも顔にひッちりをこしらえたり、手に繃帯《ほうたい》をしていた。砂型に鉄を注ぎ込むとき、水分の急激な発散と、それと一緒に起る鉄の火花で皆やけど[#「やけど」に傍点]をしていた。
 鍛冶場の耳の遠い北川爺は森本をみると、
 ――ビラの通りに何んか起るのか。どうしても、こういう工合にしなけア駄目なもんかなア、森よ!
 と云った。
 ――そうだよ。そうなれば爺《じい》ちゃだって、安心ッてもんだ。
 北川爺は耳が遠いので、彼を見ながら、頭をかしげて、あやふやな笑い顔を向けた。
 打鋲《リベッチング》の山上は、
 ――やるど!
 と云った。彼は同志の一人だった。
 ――仕上場はどうだい?
 腕を少し動かしても、上膊の筋肉が、グル、グルッとこぶ[#「こぶ」に
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