に、お前だけ工場長にでもなったように、ツウーンとしているんだな。
森本はギョッとして、キツ先を外した。
――指導精神が違いますだ。
――そうか。自分だけは喰わなくてもいゝッて指導精神か。結構だな。
――そ。正にそう。
森本は製罐部で見て置かなければならなかったのは、肉親関係をお互に持っている職工たちの動きだった。それはお君や、この方の同志にも殊更に注意して置いた。然しまだそれは見えていなかった。
たゞ心配なことは、工場全体の動きを早くも見てとって、工場長が「H・S」全体に利害を持つことだからと、「工場大会」か何かの形で「先手」を打って来ないか、ということだった。――工場内の動きのうちには、ハッキリ分ることだが、自分たちの立場、階級的な気持からではなくて、矢張り其処には「会社全体の大問題」だという興奮のあることを見逃すことが出来なかった。乗ぜられ易い機微を、彼はそこに感じた。
鋳物場では車輪の砂型をとってある側に、三四人立ち固まっていた。木型の大工も交っていた。すぐ下がってくる水洟《みずばな》を何度も何度もすゝり上げていた。
――誰か思いきって、グイと先頭に立つものが居な
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