ライキになったら、専務より先きに、この職長をグレエンにぶら下げて、下から突き上げしてやるんだ、と仕上場では云っていた。――「フン、今に見ろ!」森本は心の中でニッ[#「ニッ」に傍点]と笑った。
工場の中は、いよ/\朝刊に出た金菱の態度と、ビラの記事でザワついていた。一足ふみ入れて、それを感じとると、森本はしめたと思った。仕事の始まる少し前の時間を、皆は機械のそばに一かたまり、一かたまりに寄ってビラのことをしゃべっている。
――こうなったら、これが矢張り第一の問題さ。
森本は集りの輪の外へとんでくるそんな言葉をつかんだ。
製罐部に顔を出すと、トップ・ラインにいたお君が、素早く見付けて、こっちへ歩いてきた。何気ない様子で、
――大丈夫よ。委員会は選挙制にするのが理屈だって云ってるわ。あんたの方の親爺、あの禿《はげ》の頑固! あいつ奴《め》だけが皆からビラをふんだくって歩いてるのよ。
それだけ云って、男のように走って行った。
アナアキストの武林が罐縁曲機《フレンジャー》に油を差していた。ひょいと上眼に見て、
――お前だな。
と云った。
――何んだ、皆こうやって興奮しているの
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