ければならないと云った。佐伯たちがその先頭に立った。「H・S危急存亡の秋《とき》、諸君の蹶起を望む!」と、愛社心を煽って歩いた。――彼等はそんなときだけ、職工をだし[#「だし」に傍点]に使うことを考えた。
 昼休みに女工たちは、男工の話し込んでいる所をウロ/\した。
 ――どうなるの?
 ときいた。
 ――男も女も半分首だとよ!
 男工がヤケ[#「ヤケ」に傍点]にどなった。

          二十

 ビラは深い用意から、女工の手によって工場に持ち込まれた。夜業準備のために、女工たちの帰えりが遅くなったとき「脱衣室」の上衣に一枚々々つッこまれた。十人近くの女工がそのために手早く立ち働いた。
 朝、森本が工場の入り口で「タイム・レコーダー」を押していると、パンパン帽をかぶった仕上場の職長が、
 ――大変だぜ!
 と云った。
 ――大変なビラだ。「ニュース」と同じ系統だ。
 ――へえ。
 ――今度は全部配られているんだ。何処から入るんかな。こゝの工場も小生意気になったもんだ。 職長は鶴見あたりの工場から流れて来た「渡り職工」だった。皆を「田舎職工」に何が分ると、鼻あしらいしていた。スト
前へ 次へ
全139ページ中101ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング