夫の窮状はもはや対岸の火事ではない。同じ運命がわれ/\にも待ちかまえている。彼等とも我々は手を握って、共に立たなければならないこと…………等々。

 色々のところから出る噂さや、憶測がグル/\廻わっているうちに、雪だるまのように大きくなった。それが職工たちを無遠慮に掻《か》き廻《ま》わした。皆は落付くことを忘れてしまった。休憩時間を待ちかまえて、皆が寄り集った。職長《おやじ》さえその仲間に首を差しこんできた。
 何時でもこッそり工場長に色々な小道具を造ってやっていた仕上場の職工などは、今度は露骨に悪口をたゝきつけられた。職工は工場で自分のものを作ることは愚か、鉄屑、ブリキ片一つ持ち出しても首だったのだ。
 ――又新しい工場長にもか? ハヽヽヽヽ、精々どうぞね!
 上役にうまく取入って威張っていたもの等が、ガラ/\とその位置を顛倒《てんとう》して行った。支え柱を一旦失うと、彼等は見事に皆の仲間|外《はず》れを食った。
 ――ざまア見ろ!
 皆は大ッぴらに、唾をハネ飛ばした。
 そんな関係を持っている職長などは顔色をなくして、周章てゝいた。が、早くも彼等は、職工の大会を開いて、対策を講じな
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