石鹸を手玉にしたり、待っていた。
――こん畜生、だまってるとえゝ[#「えゝ」に傍点]気になりやがって、棒杭《ぼうぐい》じゃないんだど。
と、云われた奴が石鹸で顔中をモグモグさせながら、
――へえ、何時《いつ》人間様になったかな。俺はまた職工さん[#「職工さん」に傍点]だとばかり思っていたが!
見当ちがいの方を見て、云いかえした。
申訳程の仕切りがあって、女工たちの洗面所がすぐ続いていた。洗面所にしゃがむと、女工たちの腰から下が見えた。職工たちは腰から下だけの「格好」で、誰が誰かを見分けるのに慣れていた。顔を何時までも洗っている振りをして、職工たちはそれを見ていた。
――あの三番目が「モンナミ」の彩《あや》ちゃんだど。
工場では、Y市の有名なカフエーやバーのめずらしい名前をとってきて、「シャン」な女工を呼んでいる。
――どうだいあの腰の工合は!
――あいつ、この頃めっきり大人になってきたぞ。フン!
――腰がものを云うからな。
――こっちは誰だ?
――おッと、動いたぞ。足を交えた。……いゝなア、畜生!
――オイッ!
後に立っているものが、それを見付けて、いきなり
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