のに、この職工たちは「ビラ」を鼻紙にしてしまった!
彼はマシン油で汚れた手を、ナッパの尻にゴシ/\こすった。「ま、それでもいゝだろう……!」――そして彼はフン、と鼻をならした。
三
終業のボーが鳴ると、皆は仕事場から一散に洗面所へ馳《か》け出した。狭いコンクリートの壁が、女湯のような喧ましさをグヮン/\響きかえした。顔の所々《ところどころ》しか写らない剥げた鏡の前で、膚ぬぎになった職工たちが、石鹸《せっけん》の泡とお湯をはね飛ばした。悍しい肩と上膊の筋肉がその度にグリ、グリッとムクレ上った。
――馬鹿野郎め、石鹸が泣きやがる、オイ鑪でゴシ/\やってくれ。
――田中絹代さんにふられ[#「ふられ」に傍点]たいってね。
――オヤ/\だ、この野郎。
割り込んで来る奴を、両方のが尻と尻をくッつけて邪魔をした。
――何んだ、大きくもない尻《けつ》を! 尻を割るど、此奴!
――へえ、済みませんね、エミちゃんのお尻でなくて。
――抱くにも、抱かれぬッてとこだな。ハハヽヽヽヽヽ。
その後で、皆は手拭《てぬぐい》を首にまきつけて、つッ立ったり、白い角《かく》の浮
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