。そこをつかまえたのだから「この野郎、半×しにしてやれる」と喜んだ。
 渡は、一言も取調べに對しては口を開かなかつた。「どうぞ、勝手に。」と云つた。
「どういふ意味だ。」司法主任と特高がだん/\アワを食ひ出した。
「どういふ意味でゝも。」
「××するぞ。」
「仕方がないよ。」
「天野屋氣取りをして、後で青くなるな。」
「貴方達も案外眼がきかないんだな。俺が××されたら云ふとか、半×しにされたからどうとか、そんな條件付きの男かどうか位は、もう分つてゐてもよささうだよ。」
 彼等は「本氣」にアワを食つてきた。「渡なら」と思ふと、さうでありさうで内心困つたことだと思つた。何故か? 彼等が若し、この×××の「元兇」から一言も「聞取書」が取れないとなると、(が、何しろ元兇だから一寸×せはしないが、)逆に、自分達の「生首」の方が危なかつた。――何より、それだつた。
 渡は×にされると、いきなりものも云はないで、後から(以下十行削除)手と足を硬直さして、空へのばした。ブル/\つとけいれん[#「けいれん」に傍点]した。そして、次に彼は××失つてゐた。
 然し渡は長い間の××の經驗から、丁度氣合術師が平氣で腕に針を通したり、燒火箸をつかんだりするそれと同じことを會得した。だから、××だ! その緊張――それが知らず知らずの間に知つた氣合だかも知れない――がくると、割合にそれが×えられた。
 こゝでは、石川五右衞門や天野屋利兵衞の、×××××××は××××××××では決してなかつた。それは××××××××。然し勿論かういふことはある――刑法百三十五條「被告人に對しては丁寧親切を旨とし、其利益となるべき事實を陳述する機會を與ふべし。」(※[#感嘆符二つ、1−8−75]])
 水をかけると、××ふきかへした。今度は誘ひ出すやうな戰法でやつてきた。
「いくら××したつて、貴方達の腹が減る位だよ。――斷然何も云はないから。」
「皆もうこツちでは分つてるんだ。云へばそれだけ輕くなるんだぜ。」
「分つてれば、それでいゝよ。俺の罪まで心配してもらはなくたつて。」
「渡君、困るなあ、それぢや。」
「俺の方もさ。――俺ア××には免疫なんだから。」
 後に三四人××係(!)が立つてゐた。
「この野郎!」一人が渡の後から腕をまはしてよこして、×を××かゝつた。「この野郎一人ゐる爲めに、小樽がうるさくて仕方がね
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