わせた。老役人は怪量の方へ膝を進めた。
「旅の御僧、もはやそなたへの疑いは晴れ申したが、さるにても、斯様《かよう》は怪物を見事に御退治めされたとは、尋常《よのつね》の出家ではござるまい、お差しつかえなくば、俗名《ぞくみょう》をうけたまわりたい」
 怪量は微笑した。
「疑いが晴れて何よりでござる、お訊《たず》ねを受けて名乗る程の者でもござらぬが、いかにも以前は弓矢取る身、九州菊池の一党にて、磯貝平太左衛門武行が成れの果《は》てでござりますわい」
「なに、磯貝平太殿」
 役人達は顔色をかえた。鎮西《ちんぜい》の剛の者磯貝平太の名は、この地まで聞えていたのであった。
 役人達は慌《あわて》て白洲へ飛び降りて、怪量の縛《いまし》めを解いて無礼を詫びた。

       二

 やがて怪量は国守《こくしゅ》の館《やかた》へ呼ばれて滞在数日、無上の面目を施《ほどこ》して出発した。
 それから三日目の深夜、怪量は木曾の山中を歩いていた。
 突然木立の間から怪しい漢《おとこ》が白刃を手にして躍《おど》り出た。
「坊主、身ぐるみ脱いで失せおろう」
 怪量はちらりと対手《あいて》を身[#「身」はママ]なが
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