飛びだして、杉林の方へ姿を消してしまった。
その時はもう夜がほのぼの明けていた。怪量は松の木をすてて首を衣の袖から離そうとしたが、首はどうしても離れなかった。怪量は笑った。
「貴様はおれと同伴《いっしょ》におりたいか」
怪量は首を袖へつけたままで山をおり、それから信州の諏訪《すわ》へ出て平気で村から村を托鉢してまわった。
血で汚れた鬼魅《きみ》悪い首を見て女達は逃げ走った。村の騒ぎが大きくなったので、土地の役人が出て来た。
「坊主、その首はどうしたものじゃ」
怪量はにこにこするのみで何も云わなかった。役人達は怪量を不敵な曲者として捕え、翌日|白洲《しらす》へ引き出した。
「売僧《まいす》、その袖の首は、何としたものじゃ、僧侶の身にあるまじき曲事《くせごと》、有体《ありてい》に申せばよし、偽《いつわ》り申すとためにならぬぞ」
怪量は役人を見て笑った。
「いや、これは轆轤首と申す妖怪《ばけもの》の首でござる。これへついておるのは、妖怪の方から勝手に啖《く》いついたまでで、拙僧の知ったことではござらぬ」
怪量は詳しく当時の模様を語《はな》した。時どき自分で可笑《おかし》くなると見
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