ぞ」
主人の髪が逆立った。
「なに、おれの体が見えぬ、さては、やられたか」
主人は歯ががちがちと鳴って、その眼からは涙が出た。
「おれは、もう、元もと通りになることができぬ、此処で死ななければならぬ、よくも、人の体を動かしおったな、乞食坊主め。よし彼の坊主を啖い殺してやる、何処におる、坊主め」
主人の首は空へ舞いあがるなり、恐ろしい形相で四辺《あたり》を睨みまわした。
「おお、其処におる、其処におる、おのれ坊主め、動くな」
ひゅうと風を切って怪量に飛びかかった。それに続いて四つの首も襲いかかった。
怪量は手ごろの松の木を引っこ抜いて、縦横無尽に振りまわした。四つの首はまたたく間に地上へ落ちたが、主人の首だけは落ちずに、いつまでも怪量に飛びかかっていたが、やがて隙を見つけたのか怪量の衣の袖へ啖《く》いついた。怪量はすかさず髷《まげ》を掴んで力一ぱい撲《なぐ》りつけた。首は一声呻くなりぐったりとなってしまった。
怪量はそのまま松の木を提《ひっさ》げて家の内へ入って往った。四つの首はもう体へ帰って、血だらけになって呻き苦しんでいた。
「坊主が来た、坊主が来た」
四人は我さきにと
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