中から話声が聞えて来た。怪量は物陰から物陰を伝ってそれに近づいて往った。
 月光の影まばらな林の中には、主人《あるじ》の首をはじめ五つの首が人魂《ひとだま》のように飛び廻っていた。みんな面白そうに笑いながら、地上《じべた》や樹から虫か何かを探して喫《く》っているのであった。
 怪量は喰い入るような目で見守っていた。と、主人の首が物を喫うことを止《や》めて他の首を揮《ふ》りかえった。
「そろそろ彼《あ》の坊主を啖《く》いたいものだな、彼奴《あいつ》め、わしの言葉を真に受けやがって、頼みもせぬ経をはじめおった。経を読んでる間は近寄れないが、もう追っつけ黎明《よあけ》に近い、坊主ももう睡ったに相違ない、睡っていたらお前達にも、彼《あ》の太った旨そうな奴を啖わしてやる、何人《たれ》か往って容子を見て来い」
 一つの首が合点合点して舞いあがり、蝙蝠《こうもり》のように家の方へ飛んで往ったが、間もなくあわただしく飛び帰って来た。
「大変じゃ、大変じゃ、彼《あ》の坊主の姿が見えませぬぞ、何処かへ往ってしまいましたぞ、いや、そればかりか、大将の体を奪って往ったのか、いくら探しても、大将の体は見えませぬ
前へ 次へ
全13ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング