は棒立になった。其処には行燈《あんどん》の燈《ひ》に照らされて、主人はじめ五つの首のない体がころがっていた。
「はてな、すぐ隣りにいたのに、これは何としたものじゃ」
怪量は四辺《あたり》に用心しながらその傍へ近づいた。そして、一つ一つ首の附根を改めてみた。首は合せ物が離れたように血の痕《あと》もなければ刃物の痕もなかった。怪量の眼が光った。
「轆轤首じゃ、さてはたばかって、わしをおびき寄せたな」
怪量は閃《きっ》となってそれを見据えたが、やがてその眼がきらりと光った。
「うむ、捜神記《そうしんき》か何かで読んだぞ、万一轆轤首の骸《むくろ》を見つけた時、その骸を即刻別の場所へ移しておくがよい、首が骸を移されたのを知れば、恐れ喘《あえ》いで、三たび地を打って死ぬとあったぞ。よし、妖怪《ばけもの》め」
笑《わらい》が怪量の頬にのぼった。やにわに主人《あるじ》の体を抱きあげたかと思うと、窓を開けて谷底へ投げ飛ばした。投げ飛ばして怪量は家の中を見まわした。戸締は皆《みな》中《なか》から厳重に出来ていた。
「さては天窓から出おったか」
怪量はそっと裏口を開けて外へ出た。外の黒々とした杉林の
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