人はその筧の水で足を洗って内へ入った。
炉《いろり》の附近《まわり》に四人の男女が控えて為《い》た。男は怪量を上座《じょうざ》へ請《しょう》じてから四人を揮《ふ》り返った。
「旅の御出家をお伴れ申したのじゃ、御挨拶申せ」
四人の者は交る交る怪量の前へ出て挨拶した。いずれも言葉は上品で態度もいやしくなかった。その後で女達は怪量に粥《かゆ》の膳をすすめた。怪量は無造作に粥を啜《すす》って、終ると口を拭《ぬぐ》い拭い主人の方を見た。
「御主人、先刻《さきほど》から御容子を伺うに、どうやら世の常の木樵衆とも見受けられぬ、以前は一花《ひとはな》咲かした侍衆が、よくよくの仔細あっての山住いと睨んだが、いかがじゃ」
「それをお訊《たず》ねなされるか」
男は当惑したようにしていたが、やがて思いきったように顔をあげた。
「これも何かの縁、罪障消滅のたしになるかも判り申さぬ、それでは聞いて頂こうか。お察しの通り、以前はさる大名に仕えた侍でござったが、ふとした事から酒と女に心を奪われ、結局《あげく》の果は何人かの者に手をかけて、この地に隠れておる者でござるが、時が経つにつれて浅間しく、邪慾のために、祖
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