ろしい魔所でござるぞ」
怪量はおちつきすましていた。
「それは面白い、狐《きつね》が出るか、狸《たぬき》が出るか、それは知らぬが、左様な妖怪|変化《へんげ》の出る場所へ野宿してこそ、諸国修行の甲斐があろうと申すものじゃ、かまわぬ、わしにかまわず、そうそう往かっしゃい」
男は怪量の顔を咎《とが》めるようにして覗《のぞ》きこんだ。
「大胆にも程のあるお方じゃ、此処へ野宿などされたら、それこそじゃ。さいわい近くにわしの住いがござる、荒屋《あばらや》ではあれど、此処よりはましじゃ、それに君子は危きに近寄らず、増上慢《ぞうじょうまん》は、御仏《みほとけ》もきつくお誡《いまし》めのはずではござらぬか」
怪量はごそりと起きて笈を肩にした。
「それでは一つ厄介になろうかの」
「では足元に気をつけて、おいでなされませ」
岩山の間の道を攀《よ》じのぼって、やがて唯《と》ある頂上の平べったい処へ出た。そこに草葺の家があって家の中から明るい灯が漏れていた。男は怪量を案内して裏手へ廻って往った。其処にすこしばかり野菜をつくった畑があり、畑の向うに杉の林があって、其処から筧《かけい》の水を引いてあった。二
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