ふのももつともだと思つた。
……女は真暗になつた林の中をふらふらと歩き出した。そして彼の傍を通つて海岸の方へ行きかけたが、泣きじやくりをしてゐた。彼は確に女は自殺するつもりだらうと思つたので助けるつもりになつた。それにしても女を驚かしてはいけないと思つたので女を二三間やり過してから歩いて行つた。
(もしもし、もしもし、)
 女はちよつと白い顔を見せたがすぐ急ぎ足で歩き出した。(僕は先つきの男です、決して怪しいもんぢやありません、あなたがお困りのやうだから、お訊ねするんです、待つてください、)
 女はまた白い顔をすこし見せたやうであつたが足は止めなかつた。
(もしもし、待つてください、あなたは非常にお困りのやうだ、)
 彼は到頭女に近寄つてその帯際に手をかけた。
(僕は先つきお眼にかかつた三島と云ふ男です、あなたは非常にお困りのやうだ、)
 女はすなほに立ち止つたがそれと一緒に両手を顔に当てて泣き出した。
(何かあなたは、御事情があるやうだ、云つてください、御相談に乗りませう、)
 女は泣くのみであつた。
(こんな所で、話すのは変ですから、私の宿へ参りませう、宿へ行つて、ゆつくりお話を聞
前へ 次へ
全35ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング