ませんよ」
 年増が云うと主婦の返事が聞えた。
「ここへ伴れて来て縛っておしまい、野狐《のぎつね》がついてるから、その男はとてもだめだ」
 妹と壮《わか》い婢《じょちゅう》が入って来たが、婢の手には少年を縛ってあったような青い長い紐があった。
「縛るのですか」
 婢が云った。
「奥様のお室《へや》へ縛るのですよ」
 年増はそう云い云いひどい力で讓を後《うしろ》へ引ぱった。讓はよたよたと後へ引きずられた。
「そのばか者をぐるぐる縛って、寝台の上へ乗っけてお置き、一つ見せるものがあるから、見せておいて、私がいびってやる」
 主婦は室の中に立っていた。同時に青い紐はぐるぐると讓の体に捲きついた。
「私が寝台の上に乗っけよう、そのかわり、奥様の後《あと》で、私がいびるのですよ」
 年増はふうふうふうと云うように笑いながら、讓の体を軽がると抱きあげて寝台の上へ持って往った。讓はもがいて体を揮《ふ》ったがそのかいがなかった。
「あの野狐《のぎつね》を伴《つ》れてお出で、野狐からさきいびってやる」
 主婦はそう云いながら寝台の縁《へり》へまた腰をかけた。讓の眼前《めさき》は暗くなってなにも見ることが
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