ませんよ」
年増が云うと主婦の返事が聞えた。
「ここへ伴れて来て縛っておしまい、野狐《のぎつね》がついてるから、その男はとてもだめだ」
妹と壮《わか》い婢《じょちゅう》が入って来たが、婢の手には少年を縛ってあったような青い長い紐があった。
「縛るのですか」
婢が云った。
「奥様のお室《へや》へ縛るのですよ」
年増はそう云い云いひどい力で讓を後《うしろ》へ引ぱった。讓はよたよたと後へ引きずられた。
「そのばか者をぐるぐる縛って、寝台の上へ乗っけてお置き、一つ見せるものがあるから、見せておいて、私がいびってやる」
主婦は室の中に立っていた。同時に青い紐はぐるぐると讓の体に捲きついた。
「私が寝台の上に乗っけよう、そのかわり、奥様の後《あと》で、私がいびるのですよ」
年増はふうふうふうと云うように笑いながら、讓の体を軽がると抱きあげて寝台の上へ持って往った。讓はもがいて体を揮《ふ》ったがそのかいがなかった。
「あの野狐《のぎつね》を伴《つ》れてお出で、野狐からさきいびってやる」
主婦はそう云いながら寝台の縁《へり》へまた腰をかけた。讓の眼前《めさき》は暗くなってなにも見ることが
前へ
次へ
全39ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング