蟇の血
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)三島《みしま》讓《じょう》は

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)三年|前《ぜん》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な
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      ※[#ローマ数字「I」、1−13−21]

 三島《みしま》讓《じょう》は先輩の家を出た。まだ雨が残っているような雨雲が空いちめんに流れている晩で、暗いうえに雨水を含んだ地べたがじくじくしていて、はねあがるようで早くは歩けなかった。そのうえ山の手の場末《ばすえ》の町であるから十時を打って間もないのに、両側の人家はもう寝てしまってひっそりとしているので、非常に路《みち》が遠いように思われてくる。で、車があるなら電車まで乗りたいと思いだしたが、夕方来る時車のあるような処もなかったのですぐそのことは断念した。断念するとともに今まで先輩に相談していた女のことが意識に登って来た。
(もすこし女の身元や素性《すじょう》
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