ていると思いながら、花の垂れさがった木の方に眼をやると、廻転機の廻るようにその花がくるくると廻って見えた。
「姉があんなに申しますから、ちょっとおあがりくださいまし」
女が前へ来て立っていた。讓はふさがっていた咽喉《のど》がやっと開《あ》いたような気もちになって女の顔を見たが、頭はぼうとなっていて、なにを考える余裕もないので吸い寄せられるように燈《ひ》のある方へ歩いて往った。歩きながら怖ごわ花の木の方に眼をやって見ると、木は金茶色の花を一めんにつけて静《しずか》に立っていた。
「さあ、どうぞおあがりくださいまし、妹が大変御厄介になりましたそうで、さあ、どうぞ」
讓は何時《いつ》の間にか土間《どま》へ立っていた。背の高い蝋細工《ろうざいく》の人形のような顔をした、黒い数多《たくさん》ある髪を束髪《そくはつ》にした凄いように※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な女が、障子《しょうじ》の引手《ひきて》に凭《もた》れるようにして立っていた。
「ありがとうございます、が、今晩はすこし急ぎますから、ここで失礼いたします」
「まあ、そうおっしゃらずに、ちょっとおあがりくださいまし
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