側を歩いている人の姿に眼を注《つ》けた。路の右側は崖になってその上にはただ一つの門燈が光っていた。右側を歩いている人はこちらを揮《ふ》り返るようにした。
「失礼ですが、電車の方へは、こう往ったらよろしゅうございましょうか」
 それは壮《わか》い女の声であった。讓には紅《あか》いその口元が見えたような気がした。彼はちょっと足を止めて、
「そうです、ここを往って、突きあたりを左へ折れて往きますと、すぐ、右に曲る処がありますから、そこを曲ってどこまでもまっすぐに往けば、電車の終点です、私も電車へ乗るつもりです」
「どうもありがとうございます、この前《さき》に私の親類もありますが、この道は、一度も通ったことがありませんから、なんだか変に思いまして……、では、そこまでごいっしょにお願いいたします」
 讓は足の遅い女と道づれになって困ると思ったがことわることもできなかった。
「往きましょう、おいでなさい」
「すみませんね」
 讓はもう歩きだしたがはじめのようにとっとと歩けなかった。彼はしかたなしに足を遅くして歩いた。
「道がお悪うございますね」
 女は讓の後《うしろ》に引き添うて歩きながらどこかし
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