うと、お玉はこうこたえた。
「お父さんやお母さんの位牌を、お寺へ立てたいから、それで集めております」
そして、昨年の秋になってお玉は常楽寺と云う寺へ両親の位牌を立て、祠堂料として銀七十目を収めたが、その残りの三十目は主人に預けてあった。それが冬になって病気になって次第に重くなって来たので、宇治の伯母の許へ引とられて養生していたが、とうとう先月の十一日に亡くなった。――九兵衛はふと預かって未だそのままになっている女の銭のことを、思いだした。
「お玉の銭を預かっていたな」と、云って彼は女房の顔を見た。
女房は九兵衛と眼を見合しただけで声は出さなかった。蠅はまだ頭の上の方で羽音をさしていた。
「あんなにして、親の位牌をたてた女じゃから、彼の銭で供養でも受けたいと思うておるかも判らんな」
「さようでございますよ」と、女房は体をこわばらせたようにしていた。
「あれの死んだのは、何時であったかな」と、九兵衛は考えて、「十一日か、……それで、そうすると、明日は四十九日じゃな」と、またすこし考えて、「よし明日は勘右衛門に頼んで我家《うち》から三十目足して、六十目にして、通西軒と瑞光寺とに三十目ずつ
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