きませんからね。」
といった。女も笑いながら迎えていった。
「花城《かじょう》さん、暫くね。今日は西南の風が吹きますから、その風に乗っていらしたのでしょ。男のお子さんが生れたってね。」
花城はいった。
「また女の子よ。」
翩翩は笑っていった。
「花城さんは、瓦竈《かわらがま》ね。なぜ伴《つ》れてらっしゃらないこと。」
花城はいった。
「さっきまで泣いてましたが、睡ってしまったからそのままにして来たのですよ。」
そこで二人は坐って酒を飲みだした。花城は羅の方を見ていった。
「若旦那、あなたは美しい方を手に入れましたね。」
羅はそこで花城を精《くわ》しく見た。それは二十三、四の美しい女であった。羅は花城が好きになったので、木の実の皮をむく時わざと案《つくえ》の下へ落して、俯向《うつむ》いて拾うようなふうをして、そっとその履《くつ》をつまんだ。花城は他の方を向いて笑って知らないふうをした。羅はうっとりなって魂を失った人のようになったが、にわかに着物にぬくみがなくなって、寒くなったので、気がついて自分の着物を見た。着物は黄な葉になっていた。羅はびっくりしてほとんど気絶しそうになった
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