が、宵《よる》に女がこしらえてくれた着物は芭蕉のような葉であるから、とても着られないだろうと思いながら手にとって見ると、緑の錦のひどく滑《なめ》らかなものであった。
間もなく飯のしたくをした。女は木の葉を採って来て、
「これは餅《もち》です。」
といって出した。羅は気昧悪く思いながら口にしてみると果して餅であった。女はまた木の葉を切って鶏と魚の形をこしらえて、それを鍋に入れて烹《に》たが、皆|真《ほんとう》の鶏と魚になった。室の隅《すみ》に一つの瓶《かめ》があって佳《よ》い酒を貯えてあったので、それを取って飲んだが、すこしすくなくなると渓の水を汲んで入れた。
三、四日して羅の痂は皆落ちてしまった。羅は女に執着を持って同棲さしてくれといった。女はいった。
「ほんとにあなたは厭《いや》なかたね。体がよくなると、もうそんなことを考えるのだもの。」
羅はいった。
「あなたに報いたいと思いまして。」
とうとう二人は同棲することになって、ひどく歓愛しあった。
ある日一人の若い婦人が笑いながら入って来て、
「翩翩《へんぺん》のおいたさん、うんとお楽しみなさいよ。面白いことはいつまでもつづ
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