います。何も恐しいことはありませんよ。」
羅は喜んで女についていった。女は深い山の中へ入っていった。そこに一つの洞穴があって、入口に渓《たに》の水が流れ、それに石橋をかけてあった。その石橋を渡って入っていくと石室が二つあって、そこには明るい光が照りわたっているので、燈火《あかり》を用いる必要がなかった。女は羅にいいつけて汚いぼろぼろの着物を脱がして、渓の中へ入って体を洗わし、
「これで洗いますと、創《きず》がなおりますよ。」
といった。女はまた障《ついたて》をよせて褥《ねどこ》の塵を払って、羅に寝よと勧めて、
「すぐおやすみなさい、今晩あなたに着物をこしらえてあげます。」
といった。羅が寝ると女は大きな芭蕉の葉のような葉を採って来て、それを切って縫いあわせて着物をこしらえた。羅は寝ながらそれを見ていた。女は着物をしあげるとたたんで枕頭《まくらもと》へ置いていった。
「朝、お召しなさい。」
そこで二人は榻《ねだい》を並べて寝た。羅は渓の水で洗ってから瘡の痛みがなくなっていたが、ひと眠りして創へ手をやってみると、もう乾いて痂《かさぶた》ができていた。
朝になって羅は起きようとした
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