はあなたのために探して、佳い奥さんをみつけましたよ」
すると孔生が問うた。
「何人《だれ》ですか」
公子が言った。
「私の親戚です」
孔生はじっと考え込んでいたが、やがて、
「そいつは、おいてもらいたいな」
と独りごとのように言ってから、壁の方を向いて詩句を吟じた。
「曾て滄海を経て水たりがたく、巫山《ふざん》を除却《じょきゃく》してこれ雲ならず」
公子は孔生の心のあるところを了解して言った。
「父はあなたの大きな才能を崇拝して、いつでも婿にしようとしているのですが、ただ妹の嬌娜は、どうも歯《とし》が若すぎるのです。姨の女《むすめ》の阿松《おまつ》は年が十七で、そんなに悪い女じゃないのです、もし信《まこと》にできないなら、阿松が毎日|園亭《あずまや》にくるのです、その前に待ってて、御覧になったらどうです」
孔生は公子に教えられたとおり園亭の前へ往って待っていた。はたして嬌娜と一人の麗人が伴れだってきた。それは黛《まゆずみ》で画いた眉の細長く曲っていて美しい、そして小さな足に鳳凰頭《ほうおうとう》の靴を穿《は》いていたが、その美しいことは嬌娜に劣らなかった。孔生は大いに悦んで
前へ
次へ
全18ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング