公子に媒妁《ばいしゃく》をしてくれと頼んだ。
翌日になって公子は内寝から出てきて孔生に、
「おめでとう、ととのいましたよ」
と言った。そこで別院の掃除をして、孔生の婚礼の式をあげた。その夜は鼓を打ち笛を吹いて音楽を奏したが、その音楽の響は梁《うつばり》の塵を落して四辺《あたり》にただようた。それはちょうど仙人のいるところを望むようであった。そこで夫婦は衾幄《へや》を同じゅうすることになったが、それは月の世界が必ずしも空に在るときめられないように思われるものがあった。そして合※[#「丞/己」、第4水準2−3−54]《ごうきん》の後には、ひどく心の満足をおぼえた。
ある夜のことであった。公子は孔生に話をして、
「これまで学問をはげんでくだされた御恩は決して忘れませんが、ただ近ごろ、単公子が訴訟が落着して帰ったので、家を返してくれとひどく催促するものですから、もうこの地を引きあげて西に往こうと思うのです、それでもう今のようにいっしょにいていただくこともできないと思うのです」
と言った。離別を悲しむの情が二人の胸の中にまつわりついて、どうすることもできなかった。孔生は、
「では、私もい
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