もおぼえないばかりでなく、その治療が速やかに竣《おわ》って少女が傍にいなくなるのを恐れていた。間もなく女は腐った肉を切りとったが、その形は円くて樹の瘤《こぶ》のようであった。また水を持ってこさして傷口を洗って、口から紅い丸のはじき弾大の物を吐いてその上におき、そろそろと撫でまわした。そして、僅かに一撫ですると火のようにほてっていた傷のほてりが、湯気のたちのぼって消えるようになくなってしまった。再び撫でまわすと癢《かゆ》いようないい気もちになった。三たび撫でまわすと全身がすっきりしてきて、その心地よさが骨髄に沁みるようであった、すると女はその丸《たま》を取って咽《のど》に入れて言った。
「これで癒りました」
 そして女は走るように出て往った。孔生はとび起きて走って往き、女の後ろから、
「ありがとうございました」
 と礼を言った。そして、もう癒らないと思っていた病気は癒ったが、思いが女に往っているので苦しくてたまらなかった。孔生はそれから読書することをやめて白痴《ばか》のように坐り、すがって生きて往く物のないようなさまであった。
 公子はもうこのさまを窺って知っていた。そして言った。
「私
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