けい》で他人の真似のできないものがあった。二人は約束して五日目五日目に酒を飲むことにしたが、その時には必ず香奴を招いた。
ある夜酒がはずんで気が熟した時、孔生は目を香奴につけた。公子はもうその意味をさっして言った。
「この女は、父が世話をしている女です、あなたは旅にいて奥さんがないから、私はあなたに代ってそれを考えているのです。きっと佳い奥さんをお世話いたします」
孔生はそこで言った。
「もし、ほんとうに世話をしてくれるなら、香奴のような女を頼みます」
すると公子が笑って言った。
「あなたは諺《ことわざ》にいう、見るところすくなくして怪しむところ多き者ですね、それを佳い女というなら、あなたの願いはたやすいことですよ」
いつの間にか半年すぎた。ある日孔生は、公子を伴《つ》れて郊外へ散歩に往こうと思って、門口まで往ったところが、門の扉にかんぬきがさして閉めてあった。孔生は不審に思って、
「なぜこうしておくのです」
と問うと、公子が答えた。
「父が、友達がくると、私の心がおちつかなくなるから、それで人のこないように、こうしてあるのです」
孔生の不審はそれではれた。その時は夏のさか
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