が遠近に伝えられた。その後孔生は進士に挙げられて、延安府の刑獄をつかさどる司理の官になったので、一家をあげて任地に往くことになったが、母は道が遠いので往かなかった。
松娘は任地で一人の男の子を生んだので、小宦と名をつけた。孔生は朝廷から差遣《さけん》せられて地方を巡察する直指《ちょくし》に忤《さかろ》うたがために官を罷《や》めさせられたが、いろいろのことに妨げられてかえることができなかった。ある日郊外へ出て猟をしていると、黒馬に乗った一人の美しい少年に往き逢ったが、少年は頻《しき》りに此方を振りかえるのであった。気をつけて見るとそれは皇甫公子であった。そこで轡《くつわ》をとって馬を停め、悲喜こもごも至るというありさまであった。
公子はやがて孔生を邀《むか》えて一つの村へ往った。そこは樹木がまっくらに生えて陽の光が射さない所であった。その家へ入ってみると金色の鴎の形をした浮き鋲を打ったりっぱな旧家であった。
「妹さんはどうしたのです」
と孔生が問うた。
「あれはお嫁に往ったのです、しかし、もうあれ達の母はないのですよ」
と公子が答えた。孔生は岳母の死を悼み、また嬌娜の結婚を悦んだ
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