「ありゃ鷲じゃのうて、熊鷹と云うじゃないか」
「ありゃ、なしじゃよ」
「なしという鳥があるかよ」
「いや、はなしじゃよ」
冗談を云ったのは北隣の老人であった。その鷲の噂があってから数日して、私達をおびえさした事件が起った。それは昼間寝かしてあった清導寺の嬰児《あかんぼ》が寺の傍の野雪隠《のぜっちん》の中に落ちて死んでいたと云う事件であった。そして、嬰児にさしてあった襁褓《おしめ》が庭の梅の木の枝にかかっていたと云って、嬰児は鷲に掴まれたと云うことになった。
「ありゃあ、どうしても鷲じゃ」
「さんでんの上を飛びよった鷲じゃよ」
「熊鷹でも小供位は掴む」
「小供が怖い、これから小供に気を注《つ》けんといかん」
「ありゃあ、お寺の坊主の力がたらんからじゃ」
「力のある坊主を伴《つ》れて来にゃあいかん」
「ありゃあ見せしめじゃ」
村は暫く寺の嬰児《あかんぼ》の死んだ噂で持ちきっていたが、それも何時の間にか忘れられてしまった。その嬰児の死んだ噂の消えた時分のこと、それは事件の起った時からどれ位時間の隔たりがあったか判らないが、某日《あるひ》の夕方、私は二三人の少年仲間とすぐ近くの畳屋と云う
前へ
次へ
全9ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング