家の庭で遊んでいた。其処は代々畳屋をやっていたが、肥った白|痘痕《あばた》のある其処の主人が歿くなるとともに商売をよして、その比は老婆と年とった娘が何もせずにいた。私たちはその畳屋の庭で、木の枝の削ったのを地べたに打ち込んで執りっこをする根っ木というのをしていたところで、堀内と云う村の巡査がつかつかと入って来て、私達の傍を通って表座敷の縁側の方へ往ったが、私達は根っ木に気をとられていたのでべつに注意もせずにいると、不意に表座敷の方で獣の吠えるような鬼魅の悪い怒りたった人声がする間もなく、障子のばたばたと倒れる音がした。私達は驚いて根っ木をやめた。畳屋の表座敷を借りて祈祷などをしていた総髪にした山伏と巡査が組みあったままで縁側に出たところであったが、間もなく二人の体は庭におりてくると黒い渦を巻いた。
 山伏の獣の吠えるような怒声は一層私たちをはらはらさした。その私達のはらはらしている前を巡査は両手を後手に縛った山伏を引きたてて往ったが、その山伏の蒼白い口髯の濃い口元に血がにじんでいたので、鬼魅が悪くなって顔をそむけている間に、もう巡査は山伏を引きたてて入口の掘立門を出て往った。
「山伏が
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