ますと、お嬢さんはお気の毒でございますよ、旦那様は立派な方でございましたが、都合があってお嬢さんが生れたばかりの時、この山へお入りになりましたが、間もなく旦那様も奥様もお嬢様を残して、お歿《な》くなりになりましたから、私がこうして一人でお世話をしております」
 乳母はしんみりとした態度になって言いはじめた。
「お嬢さんは、もう十七でございますから、よい処がございますなら、嫁《かた》づけたいと思います、そうなれば、私の重荷もおりますが、女の手では、思うようにならないで困っております、ほんとにそういう場合には、何人かしっかりした男のお友達が欲しいと思います」
 章は乳母が永い間の労苦に同情の眼を向けた。若い彼は酒のために非常に感情的になっていた。
「そうですか、それはたいへんでしたね」
「なに、私もおよばずながら、旦那様と奥様に、御恩報じをいたしたいと思うてやっておることでございますから、苦しいとも何とも思いませんが、時たま、女ばかしでは困るので、貴方のような、若いしっかりしたお友達があるならいいがと、思うことがあります、どうかこれを御縁に、これからお友達になってくださいまし」
「私でかま
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