私もお相伴《しょうばん》いたします」
 章はお辞儀をした。乳母は一人でまた出て往って料理をたべる器を持ってきた。そして三人で卓に向った。
「さあ、何もございませんが」
 乳母は章の盃に酒を充した。
「お嬢さんも、自個《じぶん》でおあがりなさいまし」
 女は無邪気に鉢の肉を取って喫《く》いはじめた。章はその無邪気な容《さま》を見ないようにして見ていた。乳母も二人が食事をはじめたのを見ると、自個でも肉に手をつけた。
 章はまた乳母の方へ眼をやった。女が無邪気であるように乳母も無邪気であった。とてもこんなことは村の女の間では見られないと思った。
「さあ、どうぞ、おあがりくださいまし、私達も遠慮なしにいただいております」
 乳母は時どきこんなことを言った。
 章はさっきから無邪気な女の口もとを見ていた。女は食物に気をとられていて章のそうしている容が判らないようなふうであった。
「お嬢さん、お客さんにも、お愛想《あいそ》をなさるものですよ」
 乳母はこう言って注意すると、女は気が注《つ》いたように章の方を見て、顔を赤くして箸を置いた。
「お嬢さんはほんとにねんねえでございますからね、でも考えてみ
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