ていらっしゃるから、咽喉の辺をさすったのよ」
 若い女はまた笑いだした。
「そうでございましょう、ほんとに貴女は、悪戯ばかしして困りますよ」
 背の高い女はこう言って章の方を向いて、
「お嬢さんは、まだねんねえでございますから、ほんとうにすみません」
「いや、どういたしまして、私は獣でも来て嘗めたと思いましたから、払い除ける拍子に、何か手端《てさき》に触りましたから、一生懸命に掴んで見ますと、それがお嬢さんの手でした、私こそ寝ぼけてて、お嬢さんを甚《ひど》い目に遭わして、お気の毒ですよ」
 章は若い女の方を見て笑った。
「どういたしまして、ほんとにお嬢さんは、ねんねえで困ります」
 背の高い女は若い女の方を見た。
「これがいい方だからかまわないようなものの、他の方であったら、どんな目に遭わされるかも判りませんよ、もうこれに懲《こ》りて、こんなことをなされてはいけませんよ」
 若い女はまたしても笑いだした。
「でね、この方が、送ってくださると言ってらしたところよ」
「それは、どうもすみません」
 背の高い女はこう言ってから、
「お嬢さんは、私がもうお伴れいたしますが、貴方様は、これからど
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