引きうけたから、もう後悔してもおッつかない。いってくれ。もし、桃を窃んで来たなら、きっと百円、金を出して、それで佳《い》い女を買ってお前の嫁にしてやる。」
子供はそこで縄を登っていった。それはちょうど蛛《くも》が糸を伝わっていくようであった。そしてだんだん雲の中へ登っていって見えないようになった。
暫くして空から一つの桃が墜《お》ちて来た。それは※[#「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1−88−72]《わん》よりも大きなものであった。彼の男は喜んで、それを堂の上の官人にたてまつった。官人は順順にそれを見たが、それは真《ほんとう》の桃であるかないかをしらべるようなさまであった。と、忽《たちま》ち縄が空から落ちて来た。彼の男は驚いて叫んだ。
「あぶない。天に人がいて、縄を断《き》ったのだ。悴《せがれ》がたいへんだ。」
暫くして空から物が堕《お》ちて来た。それは子供の首であった。彼の男は首を抱きかかえて泣いていった。
「これは、きっと、桃を偸《ぬす》んでいて、番人に見つかったのだ。」
また暫くして一つの足が落ちて来たが、それにつづいて手も胴も体もばらばらと堕ちて来た。
彼の男は
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